現在、地方の老舗百貨店で契約社員として働いていています。契約社員と言っても半年コースの短期組と1年コースの長期組に別れており、私は1年コースの販売担当の契約社員です。
短期、長期ごとに契約を更新するわけですが、勤務態度がよほど悪くない限りは、本人の希望通りに契約更新できることがほとんどです。様々な雇用形態で働く人の多い百貨店ではどこもそうなのかもしれませんが、とにかく正社員が偉くて仕方ないという社風で「正社員こそが正義」みたいな風潮なのです。
私が所属する部署は、取引先のメーカー社員が8割を占めている売り場です。ですから正社員の人たちが率先して商品知識を高めたり、接客しなくていいシステムになっているんです。もちろん商品について勉強するに越したことはないと、自主的に勉強する社員もいますが、そういった会社の体制にあぐらをかいて、何も勉強しようとしない正社員がほとんどです。
会社の方針としても「正社員はあくまでも売り場の管理を行う者」としていて、接客して実際に販売するのは、私のような契約社員、定時社員(パート社員)、各メーカーの人たちです。もちろん売り上げの数字管理などやる仕事はありますが、私がいる取引先社員が多い売り場で商品知識を持たない人間はやはり軽んじられてしまいます。
百貨店の売り場に勤務していながら、商品の説明ができない、接客もできない、電話での問い合わせにすら用を足さない、これでは周りから馬鹿にされるのは当然です。そういった雰囲気を断ち切るかのように、結果恐怖政治ではありませんが、気に入らないことがあるとすぐに取引先の上の人間に報告する社員がいます。
仕事をしない社員に限って、そのあたりの立ち回だけは抜け目ないので本当に厄介です。ある時、レジ集計で現金が10万円ほど合わないことがありました。その日のレジ当番の売り場の社員が全て契約社員であったため、盗難ではないかとの噂が立ちました。私自身も契約社員にもかかわらず、私の目の前で正社員の先輩たちが「あそこ契約しかいないから怪しいよね」と言い合っていました。そして数ヵ月後、うちの売り場で使い込みが発覚したのです。
使い込みをしていたのは、レジの現金が合わなかった時に契約社員を疑っていたあの先輩でした。私はその使い込みに関して担当が全く違ったので疑われることは無かったのですが、同じ使い込まれた部門を担当していた契約社員が早々に呼び出されて事情を聞かれていたそうです。レジで合わなかった現金もその先輩がやったことらしく、それ以後会社に姿を見せることなく退職しました。
そんな不祥事後の飲み会の席でのこと、驚いたのは使い込んだ先輩のことを正社員の人たちがみんなでフォローしていたことでした。「あいつを頼りにしすぎてぎて負担をかけてしまった」「体制が悪かったから」などなど。そして呼び出されて事情を聞かれた契約社員の目の前で、正社員の人たちは「みんなその契約社員がやったのだろうと思った」と言ったのです。
それを聞いて本当に正社員天国の馬鹿会社だと呆れました。やって良いことと悪いことの判断がつかないような年齢でもないですし、やった本人が一番悪いに決まっていることを、どうして正社員だからと言うだけで庇うのか。しかも本人目の前にして「お前が犯人だと思った」なんてよく言えたものです。
もちろん、言われた本人も気分を害しているようでしたが、正直文句言ったところでこの人たちに通じる理屈ではないように思いました。彼らの善悪の判断は正社員かそうでないか、その一点にあるのでしょう。そしてそれこそが最高の価値なのだと、ここで働くにはそう諦めるしかないのだとつくづく感じた一件でした。
正社員という立場に優越感を感じたいだけじゃない?
こういった正社員天国の根底にあるのは、様々な雇用条件で働く職場では仕方のないことだと思っています。特に現在は正規社員として働ける職場が減ってきているので難しいです。
人間というのは常に何かと比較して優越感に浸りたい生き物ですから、こういった雇用の差が生み出す差別意識が無くなることはないと感じています。ですからそんな下らない価値観の人間たちに振り回されても自分が損するだけです。
私はこの販売という仕事が好きですし、誇りも持っています。ですから正社員たちが一目置くくらい商品のことを覚えて、お客様に信頼させるような販売員になることの方がよほど建設的だと考えるようにしています。