子どもの頃から東京に憧れていた私ですが、高校を出てそのまま郷里である地方で就職して働いていました。仕事は自動車の整備の仕事でした。
30歳になって、ふと将来を考えたとき、”自分が本当にやりたいことは何なのか”と考えました。私は小さいころから料理人になるのが夢でした。小学生のときに観たテレビドラマの「天皇の料理番」を観て、そう思ったのでした。しかし、成り行き上、高校の工業科に入って学ぶうち、自動車整備の仕事になんとなくついてしまったのです。
地元にいてはその夢は実現できません。かといって、30歳にして東京に旅立つというのも無謀な話で、親に相談したところ、案の定反対されました。しかし、3つ離れた兄が「一度限りの人生だ。悶々としながら今の仕事をするより、一か八か挑戦してみろ」と言って、「出世払いでいい」として資金とともに送り出してくれました。
友人の親御さんのつてで、日本料理店を紹介してもらい、そこに30歳の板前見習いとして入ることになりました。本当にラッキーでした。中学や高校を出たての見習いの子と一緒に怒られる日々でしたが、「東京で料理店を出す」という高すぎる目標があったからこそ、どんなことでも耐えてこられました。
東京に来て感じたことは、「家賃が高い」ということでした。あとは、食料品にしても、ほかの生活必需品にしても、住んでいた地方と変わらないというのが実感でした。その家賃も、料理店のオーナーが格安のところを紹介してくれ、大変ありがたかったです。
中途半端な気持ちで上京するのはやめるべき
東京に出てきて間もなく10年。板場を任され、見習いを教える立場になりました。結婚を約束している女性もいて、その彼女のためにも、早く一人前になろうと決意しています。
これまで大変なことはありましたが、逃げ出そうとか、辞めてしまいたいと思ったことは、一瞬もないです。それほど、料理人になりたいという気持ちが強かったからだと思います。逆に、中途半端な気持ちだったら、すぐに辞めていたと思います。自分なりに悔いのない人生が生きてこられていると思っています。